――ジャンプ小説・ノンフィクション大賞応募時から漫画のノベライズ(小説化)を意識されていたとのことですが、『ジョジョの奇妙な冒険』のノベライズ『The Book jojo's bizarre adventure 4th another day』はどのような経緯で執筆されることになったのでしょうか?
あるとき編集部に行ったところ、『ジョジョの奇妙な冒険』の第三部のノベライズがすでに刊行されていて、もうすぐ第五部のノベライズも刊行されるという話を伺ったんです。もともと『ジョジョ』の第四部が好きで、「あれ、第四部のノベライズは出す予定はないんですか?」と気になって聞いてみたんですよ。ぜひ第四部のノベライズをやるときにはお声がけくださいと言ったところ、なぜか僕が書けることになりました。決まったときは「やったー!」と喜んだのを覚えています。
――『The Book』の前身は『テュルプ博士の解剖学講義』として『読むジャンプ』という小説雑誌に掲載されましたが、結果的にまったく違う作品となって刊行されることとなりました。どのような経緯があったのでしょうか?
まずそもそもの問題として、僕がバトルものを書いたことがなくてその描写にすごい悩んだんです。書いては消し、書いては消し、と繰り返しているうちにあっという間にボツ原稿が2000枚ぐらいになってしまったんですよ。そんなときに編集者の方から雑誌に冒頭部分だけを載せたいと依頼があったのですが、原稿はまだ満足のいく出来になっていない状態でした。そのころはひとまず全部書いてダメだったら全部ボツにするという執筆の仕方しかできなくて、冒頭部分を雑誌に掲載したものも全て使えない原稿になってしまう可能性があるんだけどなという思いがありました。でも、編集者の方に説得され載せてみたんですが、結局納得がいかなくて全ボツということになってしまいました。
――作中ではオリジナルスタンドも登場しますが、この能力はどのように決めたのでしょうか?
何回か原稿の全ボツを繰り返した後、「何でしっくりこないんだろう」という気持ちになり、ついには「漫画であるジョジョを小説で読む意味がわからない」という状態に陥ってしまったんです。その問題を解消するために何かメタ的なフックが必要になると考えたんです。それで「じゃあ、小説的なものがスタンドなら小説で読む意味があるかもしれない※」と思って「The Book」というスタンドを扱ったストーリーにしようと思ったんです。
※作中に登場するスタンド「The Book」は本の形をしており、そのため単行本の装丁はスタンド「The Book」を模したデザインとなっている。裏表紙には作中でのスタンド使用者の手形がついており、他にも飛び出す絵本の仕掛けなどが本の中にほどこされている豪華な作品となった。
――苦労の末に無事刊行の運びとなり大ヒットを記録した『The Book』でしたが、執筆を終えられた後はどのような気持ち抱かれたのでしょうか?
さびしい感じはありましたね。長編を抱えて合間に短編を書くというのが僕は好きみたいで、今『Arknoah』もそうなんですけど......やりかけの仕事が傍らにあるほうが、うまく言えないんですけど、なぜか落ち着くんです。苦労して手がけた作品というのもありましたが長編の執筆が終わってしまったというのはそういう意味でもさびしかったですね。
――ノベライズを経験してみてご自身の中で、何か影響があったり、やってよかったなと思うことはありましたか?
自分にとっては大きなチャレンジでしたね。まだ20代だったのでかなりプレッシャーがありました。でもだからこそ、やりきったことですごい自信がつきました。ノベライズの中でも『ジョジョ』はすごい書き手を試すところがある気がするんですよね。おかげで、今後どんな企画が来てもしり込みせずに取り組むことができるかも、と思えるようになりました。
そういえば、初めてこの小説の依頼を受けたときはハードカバーの単行本で出すつもりは全然なかったんですよ。それが装丁もすごい凝ったものになって、自分で思っていた以上に大きく物事が動いていったんだなと振り返って思いましたね(笑)
後は荒木先生が描き下ろしのイラストを描いてくださったのは本当に嬉しかったです。
――さきほど話題にもあがりましたJUMP j BOOKSから刊行されている『Arknoah』についてもお聞きしていきたいと思います。乙一先生初の長編シリーズとなった本作ですが、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
色んなジャンルの小説を書いてきたんですけど、結局、ファンタジー小説はまだ書いてないなと思ったんです。好きで読んでいたジャンルなんだけどしり込みして書いてなかったので、チャレンジしてみていいかなという気持ちがありました。『Arknoah』の設定はだいぶ前にアニメの脚本に関わっていたときにボツになったネタでもあったんですけど、せっかく作ったネタをボツにするのももったいないし、なら小説にしちゃえばいいかなと思ったのがきっかけでした。
――登場するキャラクターの話しぶりやキャラクターのおかれている境遇、地の文などから海外の児童文学の雰囲気が強く感じられたのですが、書きぶりなどは意識されていたのでしょうか?
かなり意識はしていましたね。小学生のときに海外の児童文学をたくさん読んでいたので、そのときのことを思い出しながら書いていました。そういう雰囲気だけじゃなくて、そこにホラー要素が加わると面白いかなと思って取り入れたりはしています。
女の子が歯並びの悪さでいじめられるシーンは自分も歯並びが悪かったことがコンプレックスだったこともあり、感情移入して書きましたね。
――『Arknoah』も元々はアニメの企画として考えられていたということですが、小説以外でもアニメ・映画の仕事など、乙一先生は様々なことにチャレンジされています。こういった仕事はどういうところにやりがいや面白さがあるのでしょうか?
小説ってずっと一人で書いていくじゃないですか。だから小説ばかりをやっていると心がすさんでいってしまうんですよね。書けなくなった作家さんって、もしかしたら小説にずっと打ち込み続けたから書けなくなってしまったんじゃないのかと想像してしまうことがあるんです。だから、小説も書くけど、一方で人と何かをやる仕事をはさんでやろうという意識があって、小説を相対化できる企画に積極的に参加していますね。
人と関わるのって苦手な方なんですけど、無理にでもそういう仕事をやっていないとダメになっていくような気がして、小説以外の仕事は自分にとって小説家を続けていく上で必要なものでもあるんだと思います。
次回更新は5月29日予定!!
第4回では乙一先生の創作の秘訣や『Arknoah』の気になる今後を直撃!
お楽しみに!!