――11月2日に新作『憂国のモリアーティ"緋色"の研究』が発売となりました。どのような経緯でこの作品を担当することになったのでしょうか?
まず最初に担当の方から「こんな作品がある」と勧めて頂いたのがこの作品でした。僕もコナン・ドイルの正典を読んでいたのでその時はまだ一読者として楽しんでいたのですが、それから少し経って作品のノベライズをやってみないかと言われ、まずは気楽にいくつか企画を出したのが始まりだったと思います。なので他の作家さんとの競合もなく、自然な流れで僕がノベライズをすることに決まっていったような印象があります。ただ、その時はまだコミックスが二巻しか出ていなかったので、キャラを掘り下げるのにそれなりに苦労しました。
――シリーズの初小説版となりましたが、本作の見所を教えてください。
漫画で描かれる本編の合間にウィリアムたちの日常に起きた小さな事件や出来事、というのが今作の内容となっています。その事件に対してウィリアムたちがどう動くのか、またそこで繰り広げられる彼らのやり取りなどを楽しんで頂けたら嬉しいです。
そしてウィリアムたちだけでなく、シャーロックたちも登場します。ロンドンの裏で悪として暗躍するウィリアムたちとは反対に、シャーロックとジョンの物語は、真っ向から事件に挑む由緒正しき探偵ものをイメージしました。なので悪の物語と正義の物語。どちらも楽しめる内容となっています。
――ノベライズ作品を初めて手がけられましたが、執筆に際して注意したところや大変だったところはありましたか?
一番大変だったのは、主にキャラクターに関する原作の設定との擦り合わせでした。漫画で描かれる個々のキャラの特徴などを自分だけではどうにも掴みかねたので、原作サイドから細かく指示を頂きました。
それとモリアーティ側のキャラクター、特にウィリアムは一つの課題に対して苦戦を強いられるという描写は相応しくないと思ったので、物語の展開も彼らのイメージを崩さぬような形で慎重に進めていきました。
――徹底的にその作品を研究し、世界に入り込むということが、ノベライズをするにあたり必要なことかと思いますが、そういった研究などからご自身の創作活動に影響があったりするのでしょうか?
今回漫画のノベライズを通して、作品から自分が受け取る印象だけで作るのではなく、その作品の読者像を想定することの重要性を学びました。会話などのやり取りに関しても、自分ならば大丈夫と思った描写でも、ファンがそれを読んでどう思うかも考慮すべきであって、この作品ではとりわけそんな読み手の視線について考えさせられた点が多かったです。
しかしその一方で、読者の目線を意識しすぎた結果、登場人物たちに不自然な言動をさせてしまう恐れもあるのかなと感じ、これからは作り手と読み手の意識、双方のバランスを取ることをより重視しようと思いました。
――ノベライズに携わることでのやりがいはどんなところにありますか?
ずばり原作を読んで「自分ならこの物語をこう書きたい」と妄想したことを実現できるところでしょうか。実際のところは僕の妄想はやや度を超えていて、企画段階で注意されることが多いのですが、それでも物語の世界観やキャラクターを自分の思い描いた通りに動かせるというのは、ノベライズのみならず二次創作全てに共通する魅力だと思います。
加えて、きちんと原作者の方から直接お話を伺えたのも貴重な体験でした。まだ原作に描かれていないキャラクターの裏話や、作品の今後の展開についても聞けたことは「公式」ノベライズならではの強みだなと感じました。
次回更新は11月28日予定!!
創作論や今後のやりたいことについてお聞きしました!
お楽しみに!!