――デビュー作『散りゆく花の名を呼んで、』はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
始まりは、長篇小説を全力を出して最後まで書ききろうと決めたことです。
〆切設定がないとだらけてしまうなと思っていたところに、タイミングよくジャンプホラー小説大賞の募集があったため、ジャンルをホラーとしました。どんなホラー小説を書こう。好きなホラーといえばB級映画。殺人鬼ものもいいけど、ここは原点に返って学校の怪談もので行こう。小説にも映画にも、物語のパターンや型があった。まずはそれを忠実に守ろう。ありがちな構成でいいから好きなものを好きなように書こう。
で、書いてて楽しいように主人公、特にヒロインには萌えを詰め込もう(なので、ヒロインの桜香(ほのか)は、外見も中身もこれでもかってくらいに個人的好みで形成されています)。可愛い女の子たちと少々のイケメンが出てきて、なんか呪われて次々と死ぬ......でも幽霊(仮)(編集部注:この時点では呪いの正体が決まっていなかったため)に好き勝手されるのはムカつくから、そこは反撃の展開にして......と考えを深めました。『スクリーム』のような、容赦なく返り討ちにする系の作品が好きなんです。作中で主人公の未来が部員たちと反撃プランを話し合っていますが、これには自分の考え方が反映されています。 「名前」の要素は途中から入れました。うまく融合したと思います。
――作中ではタイトルにもあるように「名前」についての知見が多く見受けられますが、元々その分野について勉強されていた経験があったのでしょうか?
きちんと勉強はしてませんが、興味はありました。父が名字の起源や歴史に詳しいので、その影響もあります。毎年「赤ちゃんの名前ランキング」をチェックして、いわゆる「キラキラネーム」にも関心がありました。この名前はどう読むのか、何故そう読むのか、調べていくうちにどんな思いを込めてそう名づけたのかを想像するようになりました。
名字に関する資料は本当に面白かったです。人と家に歴史あり。それを紐解く糸口になるのが名字なり。奥深いです。
――働きながら受賞作を執筆されていたということですが、執筆の際に大変だったことはありますか? それをどのようにして乗り越えましたか?
執筆時間の確保です。最終手段の「睡眠時間を削る」は駄目でした。あとで体調を崩して心底後悔しました。
せわしない日々でもちょっとした隙間時間はあるので、それを活用しています。ついダラダラとネットやSNSを見てしまう癖をなくして、思いついたことを即メモして、その日のうちに清書します。放置していたら自分でも何を書いてるのか分からなくなるので。
読書、特に小難しい資料を読む時は、「困難の分割」を合言葉にしてます。まずは本を開いて、一頁だけ、一章だけ読んでみようと重い腰を上げる。するとあら不思議、いつの間にか全部目を通して、本はめぼしい箇所に貼った付箋だらけ、使えそうなものを書いたメモも出来上がり。要は千里の道も一歩からと同義ですが、こちらは楽をするための手段です。
――執筆するうえで、ここはこだわった、読者の方にぜひ読んでもらいたいという部分はありますか?
〈キラズさん〉登場のシーンは、「いじめ」がベースなので、陰湿さ、卑怯さを盛り込みました。「いじめって嫌だな」と嫌悪感を持ってもらえると書いた甲斐があります。
最大のこだわりはやっぱり「名前」です。登場人物全員に名前の由来があります。
未来(みら)は作中のとおり星の名前で、「両親が長い時間をかけて授かった子で、待ち望んだ希望だから」、桜香(ほのか)は「四月の桜が散る頃、香りだけはほのかに残る季節に生まれたから」、紫花子(あいこ)たち姉妹は、「両親のプロポーズが満開の紫陽花の前だったから」と、背景があります。スペースが許せば全員分書きたいくらいです。
また、引用したラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の『かけひき』は、『地獄先生ぬ?べ?』で知りました。単行本のおまけに載っていたもので、同士は何巻なのか当ててみてください。
――編集、校正、デザイナー、イラストレーターなど多くの人の手が加わって、デビュー作が刊行の運びとなりましたが、ひとりで小説を執筆されていたときとの違いをどのように感じますか?
創作は責任感がないとできませんが、一人で書いて発表するのと、出版していただくのとでは、その重さが段違いでした。 短篇を掲載していただいた本も出版されているのですが、その時は賞を取った当時の原稿に修正を少し入れただけでこちらの作業は終わり、あとは出版されるのも待つだけでした。今回は改稿から校正までが4ヶ月ほどの期間で進み、校正も複数回行ったので関わる工程の数もスケジュール感も全然違って初めて知ったことが多かったです。
そういうこともあって、私が下手を打ったり折れたりしたらたくさんの人に迷惑がかかる、と褌を締め直しました。
迷いが出ると相談に乗ってもらえたのも大きいです。小説には正解がないのでやたら不安になります。
担当編集さんや校正さんには、作者である私が気づかないようなところまで見てくださって、デザイナーさんやイラストレーターさんには、文字だけの物語を視覚に訴えるよう魅せてくださいました。
真剣に向き合っていただいて、この作品は幸せものだと思います。心の底から有難いです。報いることができればよいのですが......。
――この作品を書き終えて、ご自身のなかで成長した、ここが変わったと思う部分はありますか?
登場人物の名前をちゃんと考えるようになりました。その人物の名づけ親がどういう思いを込めて、どういうつもりで名づけたのかも含めて考えます。そうすると不思議なもので、人物との距離がグッと近づく......ような気がします。
そしてお恥ずかしい話ですが、私はプロの編集者さんと話すまで、「自分は小説を書けている」と無意識のうちに思い上がっていました。全然そんなことはなかった。まったく分かっていなかった。慢心甚だしい。羞恥と自分への憤りでのたうちまわりました。
マイナスから勉強しなおし中です。小説や脚本の書き方の指南書を読んだり実践したりしてます。物語の魔法に魅せられるだけでなく、魔法をかける側になりたいです。
次回更新は5月2日予定!!
創作論などについてお聞きしましたが、原稿に行き詰った時は○○でモフモフ?
お楽しみに!