――第3回ジャンプホラー小説大賞の銀賞受賞となった当時のお話を伺います。受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください。
とある資格試験の三日前、資格スクールの直前講義が始まる三十分前に電話がかかってきました。知らない番号で、検索してみると集英社、「まさか......?」とドキドキしながら折り返して、第一報を受けました。
原稿を投稿した後、仕事や資格試験の勉強で慌しくしていたので、一次選考に通っていたことも確認しておらず、驚きと混乱のあまり、「今!?」と思いました。「今このタイミングでそれを知るのか」という意味です。
「試験三日前にこんなビッグインパクト受けるとか色々どうでもようなるやん! いやどうでもよくはないけど! どないしよう!」と一人で心の中で大騒ぎして、嬉しいやら信じられないやらでもやっぱり嬉しいやらで、武者震いしながら講義を受けました。いい思い出です。
――結果発表は週刊少年ジャンプにも掲載されましたが、それを見てどのように感じましたか?」
率直かつ飾り気なしに申し上げますと、「すごい......ジャンプに載ってる......子どもの頃から大好きで、きょうだいも友達もみんな読んでて、オタクピークの高校時代と社会人初期の時代にほぼ毎週買ってたジャンプに......今まで単行本その他と合わせておいくら万円つぎこんだか分からないジャンプに......私が書いた作品のタイトルと私の筆名が載ってる......!!」と感涙してレジに持っていきました。
――授賞式の思い出についてお聞きします。初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか? ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください。
前述のとおり、根っこは単なるオタクなので、緊張と興奮のくりかえしです。気持ちを奮い立たせるために「カチコミだーっ!」と勢い込んで臨んだのですが、ビルの大きさに一瞬で萎みました。編集部がある階に着いて、殺せんせーの看板を見た時は安堵で泣きそうになりました。
担当編集さんの案内で編集部に着くと気分は一転、大興奮して、ご挨拶をしながら「うわー『バクマン。』の実写映画で見たのと一緒だ! ジャンプ作品のポスターだらけ! 立て看板だらけ! 紙の束を積んだ机だらけ! これは探せばどこかに映画の出演者の方がいる! いるわけないけど!!」と意味不明なことを考えていました。すみません。
――授賞式では他の受賞者の方ともお話する機会があったと思いますが、どのようなお話をしましたか? また、授賞式を通してご自身の中で変わったことはありますか?
受賞者の方々とは、少しだけ「プロットを作ったか」などの話をしました。創作する人と話す機会が少ないので嬉しかったです。遠方から来た方もいたので、「大変でしたねー」とほのぼのとしたやりとりだけして、すぐに授賞式が始まりました。出席されたお二人ともう少し話したかったです。
変わったことは、周囲の人に「小説書いてます」と言うようになったことです。今までも隠すつもりはなかったのですが......おかげで会話が弾みます。「何かネタください。面白い話しをしてください」「ちょっとお仕事のお話聞かせてください」と気軽に言えるようにもなりました。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から受賞作にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
最初の顔合わせと打ち合わせの際、とても温厚で、話をよく聞いてくれて、分かりやすく話す方だという印象を持ちました。
受賞作への評価は、「展開と構成にさほど問題はないけれど、細部が雑で説明に頼りすぎてる」などでした。助言が「不要な場面と人物を削る」、「ディテールを詰める」、「説明ではなく描写で。アクションとリアクションに置き換えて」と具体的で、助かりました。
指摘された上で見てみると確かに雑で......たとえば、『散りゆく花の名を呼んで、』では主人公が不法侵入する場面があるのですが、初めは「不法侵入の件はうやむやになった」で終了させてしまって。それに対しての「なりません」というシンプルなツッコミに、「ですよね」と反省しました。
――受賞から約半年ほどでのデビューとなりましたが、その間に受賞作の改稿などがありました。どれくらいの分量を加筆・修正したのでしょうか。
まるまる全部、一から書き直しました。応募前にも同じ設定の作品を書いていたのですが、それとあわせると同じ物語を三度書いたことになります。いい経験です。
指摘を参考に全体を見直してみると、書き直す方が早いと判断しました。
不要な人物と場面は削ったんですが、それ以上にエピソードを挿入して人物を固めたり掘り下げたり。ストーリー展開はほぼ変更がないのですが、分量としては原稿用紙百枚分は足したと思います。申し訳ないです。OKを出してくださったことに感謝しています。おかげで納得のいく作品に育ちました。些少の不安はあっても自信をもって外に出せて、出版界の荒海に送り出せます。
――受賞してからデビューまでの間にあったことで、必ずしも自分が想像していたものとは違うことがあったかと思いますが、どんなことがありましたか?
思った以上に改稿と著者校正のスケジュールがカツカツでした。私のスケジュール管理能力不足が原因なので自業自得なのですが(笑)
去年の11月から改稿の作業に入ったものの、ああでもないこうでもないと頭をひねっている間にかなり行き詰ってしまい、一旦頭をリセットさせた方がいいなと思って丸々新しい別の作品を1本書いてしまったんです。たまっているものを1回掃きだそうと思ったんですが、今考えると無茶したな~と思うし、結構テンぱっていましたね。さらに校正での矛盾の解消と言い回しや表現で頭をひねり、何度か心が折れかけました。
ただ、思ったより孤独ではなかったです。担当さんがいつでも相談に乗ってくださいましたし、イラストレーターさんのラフ画や欅坂46の石森虹花さんから寄せられた推薦コメントも送ってくださったので、とても励みになりました。
今では「小説を出版するのってこんなに大変なのか。二度と流し読みなんてしません」と反省して、小説を読む時の心構えが変わりました。
次回更新は4月25日予定!!
受賞作『散りゆく花の名を呼んで、』を執筆したことで起こった変化とは?
お楽しみに!!