――ジャンプ小説新人賞'14 Summer キャラクター小説部門金賞となった当時のお話を伺いたいと思います。受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください。
最初に電話がかかってきたときは外出してて、お店の中にいたんですけど、店内に流れている音が大きくて電話に気づくのが遅れ、あとで駐車場からかけ直すことになりました。
見知らぬ電話番号でしたので、どこからの着信か検索したところ『集英社』の文字が引っかかり、それを目にした瞬間が一番ドキドキしました。
担当についていただくことになっていた添田さんから金賞受賞を知らされるなり『一番いい賞じゃないですか! そんなに要らないです!!』と思わず言ってしまった気もするんですが、今にして思うと謙遜なのか何なのか、よく分からないことを言ってしまいましたね。
――小説新人賞に応募する前からゾンビゲーム実況者として名の知られていたぞんちょ先生ですが、ゾンビゲームの実況が受賞作を書く際に役に立ったな、と思う部分はありましたか?
ゾンビゲームそのものというわけではないのですが、海外産のゲームをプレイするにあたり、セリフに日本語の字幕を付けようと思い立ちました。
画面内に収まるように文章量を見直し、且つ正確にニュアンスを伝えるという作業は、今にして思えば小説を書く特訓になっていた気がします。師匠にいわれるがまま特訓を受けていたら、いつの間にかすごく筋力がついていたというような、思わぬ成果がありました。
あと、もし小説のシーンが動画だとしたら、どんなコメントが流れるかなと想像し、読者(視聴者)の方の反応を予想できるようにもなりました。作品の客観視というんでしょうか。
あくまで脳内コメンターの方々からの反応なので、優しいコメントしかつかないという欠点もあるのですが。
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか?ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください。
まず頭に浮かんだのは『バクマン。』で出て来た場面だ! という感想でした。
当時の編集長であった浅田さんとお会いしたときは『ネウロに出てくるキャラだ! 漫画より細い!』と思いました※1し、周平さんとお会いしたときは『ミニキャッパーだ! 帽子ないけど!』※2と、ジャンプの一読者として心の中でひっそりと、けれど大いにはしゃいでいました。
想像ではひっきりなしに電話が鳴って、怒声が飛び交い、天井にはタバコの煙が充満していて、編集者と新人作家が熱い創作論をぶつけ合っている、みたいな光景を想像していたのですが、思いのほか静かでしたし、分煙でした。
今でも編集部にお伺いするときは緊張するのですが、それ以上にワクワクしています。
※1『魔人探偵脳噛ネウロ』に登場する浅田忠信のモデルが前・浅田編集長だったため。
※2 JUMP j BOOKS編集部の編集者・渡辺周平のこと。そのキャラクターぶりが受けて、『中2神アッテーナ〜大石浩二短編集〜』内で漫画化された。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から応募作にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
本人も目にするであろう記事で印象ですか......。
とにかく、眼鏡をかけていて、ハンサムな方だなと思ったのですが、一つ残念な点がありまして...『バクマン。』が大好きでしたので、担当編集さんからコーヒーを入れていただけるかもと期待していたのですが、その時は出てこなかったんです(笑)
後日入れてくださりはしたのですが、最初の打ち合わせでは空港で買ったお茶をごくごく飲んでいた記憶があります。
『丸ノ内 OF THE DEAD』への評価は『読者の視点によく立てている』というものでした。
ただ、前置きなしにキャラクターのセリフを音読されたときは、顔から火が出るかと思いました。インターネット上ではなく、現実で対面した方に作品を読んでいただくのははじめてだったんです。今にして思えば大したこともないのですが、当時はとても恥ずかしかったです。
――受賞してからデビューまではどのぐらい時間がかかったのでしょうか? また、『丸ノ内 OF THE DEAD』では応募時の原稿からどの程度改稿を行ったのでしょうか?
2ヶ月とちょっとかかりました。2015年のお正月にジャンプの紙面で受賞の告知をいただき、3月末に刊行といったスケジュールでした。
『丸ノ内 OF THE DEAD』の改稿ではいくつかシーンを追加しました。出番がなく、名前のみ登場する子供がふたりいたのですが、その子たちと対決するシーンなど。どうせ名前しか出ないからいいだろう、と「ソニック・ザ・ジムヌラ」に「ウォーターポンプハザード」なんて悪ふざけのような名前をつけていたのですが、響きが気に入っていたので名前はそのままにしました。ちなみにジムヌラはハリネズミ科の哺乳類です。
そのふたりの名前は変えませんでしたが、他の主要キャラクターは名前を変更しました。ヒロインの名前が「アイラ」なのですが、他にも「あすか」という男の子と「アリス」という女の子がいまして、「あ」から始まる名前(しかも全部三文字)が三人は流石にまずい......と思ったので、それぞれ「俊」と「朱璃」という名前になりました。
――2作目となる『たがやすゾンビさま』もゾンビを題材にしていましたが、こちらは受賞作『丸ノ内 OF THE DEAD』で描いたスチームパンクの世界観とは打って変わって、異世界でのゆる~いゾンビの生活を描いた作品になりました。どういった経緯でこの作品が生まれたのでしょうか?
二作目を書くにあたり、一行程度にまとめたいくつかのあらすじを担当の添田さんにお渡ししたのですが、その中でもっとも反応の良かったのが『主人公の部下であるゾンビが勇者たちに襲われる。「うまっwww時給8000www」とはしゃぐ勇者たち』※3というものでした。
これを聞いてどんなネタか分かる方もいらっしゃるかもしれませんが、添田さんも僕も某ネットゲームに夢中になっていた時期がありまして、そこからどんどん話が進んで『元社畜のゾンビがスローライフを送る』といった異世界ファンタジーの設定が固まっていったんです。
こちらは『丸ノ内 OF THE DEAD』とは異なり、かなり改稿しました。その甲斐もあり、とてもいい本になったと自負しております。
※3 オンラインゲームで、簡単に経験値を稼ぐことのできる敵や狩場などを見つけた際に使われる言葉。『たがやすゾンビさま』では序盤にこのネタが取り入れられている。
――ゾンビ小説という日本では珍しいジャンルの作品を書かれていらっしゃいますが、ゾンビを題材にして小説を書く際にこだわりなどはありますか?
メリハリをつけるように意識しています。
笑えるところは面白おかしく、だけどゴア描写(編集部注:流血などグロテスクな表現)は徹底的にといった具合にです。ゴア描写については、ただ肉体が崩れていく様を描写するだけでは淡泊過ぎますので、もうひとつ、五感に訴える表現を加えるようにしています。腐肉に埋もれる指先ですとか、鼻孔をかすめる腐臭ですとか。
ゾンビを題材にして――という趣旨からはズレてしまうのんですが、小説を書く際のこだわり(?)のひとつに「おに」という字を漢字で書かない、というものがあります。
ただ、これは漢字で書くと、なぜか身の回りで嫌なことや変なことが起こるという個人的な理由からなんです。
『ゲゲゲの○太郎』の主人公も「き太郎」としか書けませんし、「殺人き」は「シリアルキラー」とか別の言葉で誤魔化していたり、比喩表現によくある「おにのような形相」も使えないので、結構困っています(笑) 「魔」みたく漢字の中に含まれているのは平気なんですけどね。自分でもよくわかっていないところにこだわりがあったりもします。
次回は5月23日更新!!
新作『NARUTO-ナルト- ナルト新伝』などノベライズ作品で得たものは?
お楽しみに!!