深夜のテンション、というものがある。午前中は事務仕事をこなし、昼は打ち合わせに出て、夕方は社内の会議に参加し、夜に校正物を印刷所に戻したら、だいたい1日が終わっている。小説編集とは、作家から小説原稿を集めて読むのがメインの仕事である。では、いつ原稿を読むのかというと深夜である。すると、作家にメールをするのはど深夜である。
深夜に小説を読むと、眠たくて内容が頭に入ってこないのでは?と思われるかもしれない。だが、面白い原稿に出会ったときはアドレナリンが溢れ出て昼よりも目が冴え渡り、シナプスがつながっていろんな想像が頭に浮かび、次から次にページをめくる手が止まらない。小説編集にとって、面白い原稿を読むときほど最高な瞬間はない。
読み終えて最高な気持ちのまま、作家にメールを書く。一気に書く。すぐれたコンセプトを褒めたたえ、伝えたいテーマがいかに響いているかを賛辞し、キャラクターの魅力的で共感可能な行動に感嘆し、予想を裏切り期待を叶えてくれる展開に驚愕し、表現方法や文体が作品世界と一致しかつ唯一無二のものになっているこの原稿を、チェックを交えながら絶賛しまくる。賛!賛!!賛賛賛!!11!1!といった感じに。この夜でなければ絶対に書けない、そう思って書く。昼にメールを書くときはどうでもいい言い回しで迷ってしまうのに、スムーズにいける。深夜は少し自分を大胆にしてくれる。
だが、深夜のテンションで書かれたメールは、時と場合と作家によっては嫌がられるときもある。作家から届いた返事の下に、ちょこんとくっついている自分のメールを読み返して、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになることもある。テンション高すぎたかなとか、ストレートに言いすぎたかなとか。でも、いまの自分が素直に作品と対峙した結果だ。次はもっといいメールが書けるようになろう、いいアドバイスができるようになろう、一晩寝かせて次の日の昼にメールをしようと心に誓う。
あと、ごくまれに送信相手を間違えてしまうこともある。そのときはちょっとどころではなく、大変申し訳ない気持ちになる(本当に申し訳ありませんでした)。深夜のテンションの、おそるべきところである。