――第11回ジャンプ小説大賞入選となった当時のお話を伺いたいと思います。受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちを教えてください
まだ私が応募していたときは、紙で原稿を送っていたので、最終候補に残るとデータをくださいと編集部から連絡があったんです。確か留守電が入っていて...原稿を送ったのが半年前ぐらいだったので、しばらく何の連絡なのかがかわからなかったんです。折り返し電話してみると最終候補に残ったということだとわかったものの、何本残っているのかもわからなかったし、絶対受賞するのは無理だなと思っていました。きっと何作も小説を書いたことがある上手な人が受賞するんだろうな、と。
その後に受賞の連絡を受けて、ただただびっくりしました。本当にまさかという感じで...もちろんすごく嬉しかったんですけど、とまどいの気持ちの方が大きかったです。
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか?ご自身の想像とは違ったりした部分などがあればお聞かせください
そのときの編集部は、今あるビルとは別のもう少し小さいビルにあったんですよ。結構静かで人もあんまりいなくて、自分の想像していた編集者が走り回っていて活気があって...みたいな出版社のイメージとは離れた雰囲気でした。通されたところが社長同士の喋るような会議室で、お会いしたのが当時の編集長(初代担当)だったんですけど、ひげのダンディーなおじさまという感じで、出版社ってこういうところなの? と意外に思いました。
そのときは受賞のお祝いと、受賞するとパソコンがいただけたので、カタログの中からどれがいいのか選んだり、どんな小説が好きかとかジャンプの話とか、一時間ぐらい雑談をしたと記憶しています。
――授賞式では選考委員の先生達とお会いする機会があったかと思いますが、参加されたのでしょうか?
参加はしましたが、そのときは審査員の先生方は出席されていませんでした。編集部の方と他の受賞者の方だけだったと思います。後は、たまたまそのときに乙一先生が上京されていたので、お話しする機会がありました。
自分が審査員の先生方からもらった講評はそんなに厳しいものではなかったのですが、過去の受賞作に対する講評を読んでみたら、特に栗本薫先生の審査がこんなに厳しかったのかと後で知りまして...。もしそれを知っていたらジャンプ小説大賞には原稿を送ってなかったかもしれないです。怒られたくない...!
――受賞作でのデビューとなりましたが、受賞からデビューまではどのぐらい時間がかかったのでしょうか? また、改稿はどの程度行ったのでしょうか?
受賞時の分量だと本にするにはページ数が足りないということで、新しく掲載する短編を書かなくてはいけなかったんですよ。それを書くのに3ヶ月ぐらいかかったと思います。
あとは、受賞作を書いていたときに京極夏彦先生の京極堂シリーズにはまっていたのですが、そのせいで送った原稿はものすごく文中に漢字が多くなっていて...それを全部ひらがなにしようという話になりました。主人公が昔からずっと生きている猫という設定だったので、難しい言葉を使うだろうなというイメージがあって、それで使っていたのもあるんですけど、ジャンプの読者層が読むものだから直していこうということになりました。結果としてすごく読みやすくなったので、直してよかったと思います。
――受賞作『そして龍太はニャーと鳴く』のイラストは久保帯人先生が描かれていましたが、イラストが決まるまでにどのような経緯があったのでしょうか?
実は受賞する前から久保先生とは友達だったんです。それで、「受賞したよ!」と話したら、「じゃあイラスト描くよ」と言ってもらえて。めっちゃくちゃに嬉しかったです。
そのやりとりがあったあとに、初代の担当さんから「ジャンプの作家がイラスト描くって言ってるんだけど、これどうなってんの?」とすごく驚かれました。
――二作目の『そして彼女は拳を振るう』から始まった「彼女シリーズ」は全三作となり、こちらもイラストは小畑健先生に描いていただく豪華な作品となりました。この作品が生まれた経緯はどういったものだったのでしょうか?
もともとは二作目を『そして龍太はニャーと鳴く』の続編として書こうとしていたのですが、ちょうど『BLEACH』のアニメが始まるころで、久保先生が忙しすぎてイラストを描いてもらうことが難しい、となったんです。それなら違う作品を書いてみるかということになって『そして彼女は拳を振るう』を執筆することになりました。主人公の八重は『そして龍太はニャーと鳴く』の中に登場させようと思っていたキャラクターだったので、そのキャラを独立させてスピンオフのような形で書いてみました。
小畑先生にイラストをお願いできたのは、初代の担当さんが少年ジャンプの小畑先生の担当さんと仲が良かったからのようで、熱烈に小畑先生にイラストを描いてもらいたいとお願いをしてくださったみたいなんです。イラストが決まったときは「そんなラッキーなことある!?」と思うと同時に、本当に嬉しかったですね。
――シリーズ作品を作る上でのコツや心がけていたことはありましたか?
当初は全然何も考えてなくて...。初代の担当さんから一冊目を書き終えた後に、「面白かったから続編を書こう」と言われて、マジかよ!? となりました。もともとシリーズにするつもりがなくて、適当な複線を張ってしまったがばっかりにどうしたらいいんだろうと悩む羽目になって...ずっと1巻を直したいと思いながら続きを書いてましたね...。いまだに何冊も続くシリーズをどうやって書けばいいのかはわかってないです。教えてほしい。
見切り発車でスタートしたシリーズだったんですが、続きが書けたというのはそれだけ評価していただけたからだと思うので、嬉しかった部分はもちろんありました。
次回更新は7月17日予定!!
『BLEACH』ノベライズの制作秘話に迫ります!
お楽しみに!!