――ジャンプ小説新人賞'12 Spring 小説フリー部門特別賞となった当時のお話を伺いたいと思います。受賞の第一報を受けとったとき何をされていたのか、また当時の気持ちをお聞かせください。
スーパーで買い物をしていた時だったと思うんですけど、編集部の方から電話がかかってきました。そのときは受賞の知らせを聞いていても、これは夢なんじゃないかと思うぐらい現実感がなかったですね。涙も出ず、ただ「はい、はい...」と相づちを打つことしかできませんでした。
授賞式への招待のメールがその後も来て、出席のために集英社に行けることになってと、トントン拍子に話が進んでいってしまいました。
――初めて編集部に足を踏み入れたときの気持ちはどんなものだったのでしょうか?
その日はすごい雨が降っていて、印刷してきた地図がぬれて読めなくなってしまったんですよね。今は流石に分かるんですけど、当時は土地勘がまったくなくて、集英社のビルがある通りとは全然違う方向に歩いてしまっていて...二時間ぐらい迷ってしまったんです(笑)
方向音痴の自覚もあったし、なれない東京だったら絶対に迷うだろうなと思ったのが見事に的中してしまいました。結果的にかなり早く着いていたので、授賞式に遅れることはなくてよかったです。
――授賞式に出席されてご自身の中で変わったことはありましたか?
まだそのときは自分が作家として生きていけるとは思っていなくて、賞を受賞するという一つの目標は達成できたと思えたぐらいでした。むしろ、ここからが大変なんだろうなという気持ちがあったので、また一歩一歩自分の考える目標を達成できるようにと気を引き締めたのは覚えています。
――初めて担当編集者と話をしたときどんな印象を持ちましたか? 編集者から応募作にどういった評価をもらったのかも聞かせてください。
初めて編集部に入るまでは、集英社にいることも集英社で働いている人たちも、私にとっては「本の世界の向こう側の出来事」だったり、「本の中にいるはずの人たち」でした。なので、担当編集の方ともすごく普通に話しているけど不思議な感覚がありました。私の世界とは交わらない人たちだと思っていたので、現実感が全然なかったんです。
受賞作へは文体や設定が個性的という評価をいただけて、それはとても嬉しかったです。インタビューのお話をいただいて、改めて読み返してみたんですけど、よくあの作品で選んでいただけたなと思ってしまう内容でした(笑)
――受賞からデビューまでの期間はどのようなやりとりを担当編集としていたのでしょうか?
受賞時は半年に1本ぐらいのペースで1作を書き上げていたんですが、最初に当時の担当編集の方と話をしたときに、作家としてやっていくには書くスピードを上げる必要があると言われたんです。それで月に1本の作品を原稿で絶対に送るというトレーニングして編集の方に読んでもらっていました。
もちろんクオリティは伴っていないことも多かったんですけど、そこでかなり書くスピードと体力は鍛えられたのでいい経験になりましたね。やっぱり量を書かないとうまくはならないので。
このトレーニングを1年間ぐらい続けていたときに『ぎんぎつね』のノベライズのお話をいただいてデビューできることになりました。
――『ぎんぎつね』のノベライズの依頼が来たときにはどのような感想をもたれましたか?
『ぎんぎつね』は動物や神社など自分が好きな要素がたくさん詰まっていて、ノベライズのお話をいただけた時は、ぜひやらせてもらいたいなと思いました。
ただ、当時は漫画や本は趣味で読んでいるというレベルで、他の作家さんに比べたら読書量はすごく少なかったと思います。担当編集の方からも、もっと本を読んだ方がいいと勧められました。そんな力不足、経験不足な自分でも大丈夫なのだろうかと心配もしていました。
結果として至らぬ部分も多かったと思うんですが、『ぎんぎつね』が私の最初のノベライズ作品ですと言えることは誇らしいですね。
――デビュー作が人気作品のノベライズとなりましたが、苦戦したところなどはあったのでしょうか?
その時は漫画の中からネタを拾い上げるのに必死で、読者が求めているものがなんなのかというのがわかっていなかったんです。原作の落合先生や担当編集の方と打合せをしていくなかで、客観的な視点で読者が読みたい『ぎんぎつね』という作品の見方を学ばせてもらいながら書いていったという感じでした。
後、文体に関しては、受賞時の作品は結構癖の強い文体だったんですけど、作品に合わせたものに変えようと意識はしながら書いていました。ノベライズを書く上では、できるだけ文字を読んで漫画の絵が浮かび上がるような文章にしたいと考えて書いています。
次回更新は6月20日予定!!
最新作『約束のネバーランド~ノーマンからの手紙~』の魅力を語っていただきました!
お楽しみに!!