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ジャンプ小説新人賞2020 最終結果発表
- テーマ部門 この帯に合う小説 金賞 賞金50万円+楯+賞状+少年ジャンプ+にて漫画化! 『鈴波アミを待っています』P.N. 塗田一帆 あらすじ 主人公の「俺」は、「鈴波アミ」というVTuberを熱心に応援していた。ある日、いつものように彼女のチャンネルのチャット欄で待機していたが、配信は始まらなかった。彼女は突如失踪したのだ。鈴波アミのファンたちはいつか彼女が戻ることを信じ、毎日一年前の配信アーカイブを同時視聴して彼女を待ち続けるが…。講評 鈴波アミの失踪によって揺れ動くネットの反応や、ファンたちの行動をリアリティをもたせつつ面白く描くことに成功しており、作中で起きる奇跡にも説得力を感じられた。最後の一行は、何気ない言葉でありながら作品を読んできた読者にとって胸を震わせるものであり、テーマに対する見事な回答だった。
- テーマ部門 バディ 金賞 賞金50万円+楯+賞状+少年ジャンプ+にて漫画化! 『都市伝説さん』P.N. 接骨木綿あらすじ 深夜、スマホを手にして人通りのない道を歩く眼鏡の少女に、包丁を持った口裂け女が襲い掛かるが、スマホの中にいたヤンキー少女によって阻まれる。眼鏡の少女・スマコとヤンキー少女・ショーちゃんは噂話から生まれた存在・都市伝説さんであり、人間に危害を加える都市伝説さんを狩る者たちだった。講評 映像の中にだけ存在できて同じ画面に映っている対象に攻撃できるショーちゃんと、撮影を続けている限りダメージが無効のスマコは、対等で互いを補い合う関係であり、「二人組のうち一方だけの比重が大きい」ものが多かった応募作の中で、バディものというお題に答え切った作品として他を圧倒した。
- テーマ部門 バディ 銅賞 賞金10万円+楯+賞状『六里塚探偵事務所へようこそ』P.N. 夏冬春秋あらすじ探偵助手の君春は、高校の同級生の七瀬から大学生の知人に関する相談を受ける。サークルの部室の扉の前に、葉っぱの入った氷が置かれるという奇妙な出来事が続いているらしい。探偵の正臣と調査を行うことにするが、正臣は君春がいないと依頼者ともまともに会話ができないほどコミュ力が低くて……講評文章・構成ともに危なげなく、小説を書く基本的なスキルは身についている。美少年かつ、不意に触られると失神してしまうような正臣の極端なコミュ力の低さなど、キャラクターの面白さもあった。対となる君春の設定が普通の枠に収まっていたので、二人の釣り合いが取れていないように見えたのが残念。
最終候補作
テーマ部門 この帯に合う小説
- 『月がきれいですね』P.N.宮本かれんあらすじ台風で休校の連絡が来る前に登校してきた弦と虹子。弦はクラスの人気者、一方、虹子は一人でいることが多いはぐれ者で、これまで交流がなかった二人。だが、電車もバスも止まってしまったため、やむを得ず一晩を校内で過ごすことに。会話を重ねるうちに、弦は虹子に惹かれていく…。ある台風の日の、静かなる感傷。講評視線誘導が巧みな作品。人気者の男子生徒から地味な女子生徒への眼差しは意図的で、見ないふりを暴き、気づかないものに目を向けさせるなど、視線によって読者を共犯にさせる試みに成功している。シチュエーションのアイデアにも個性が光り、描写力が高い。一方で、ラスト一行で泣くほどの心情的な盛り上がりに欠けた。
- 『メッセージボトル』P.N.夏井三毛子あらすじ隣国との戦争が続く国。イーバとカケの兄弟は戦士を志していたが、試験によりイーバのみが合格し戦地へ配属される。イーバが死ねば自身が戦士になれると知っていたカケは、戦死者の名が刻まれる塔にイーバの名が記されるのを待っていたが、イーバからは数十年に渡って無事を告げる手紙が届き続ける……。講評 隠された真実と兄の想いを明かす、ドラマの中で最も読者の胸を揺さぶる部分を最後の一行に置いた点で、お題への意識は高く評価したい。反面、その仕掛けのために時系列が前後し過ぎており、ストーリーの全体像を把握しにくく、最後の一行の意味が瞬間的には理解しづらくなってしまったのが残念だった。
- 『ヒーローラベル』P.N.泉いつかあらすじ 役者志望の高見堂圭二は地元の寂れた遊園地でヒーローショーのアルバイトをしていた。オーディションには全く受からず二十五歳。あるとき、今まで主役を演じていた六峯が引退し、代わりに元子役である谷津倉佑樹が入ることに。若くて経験も豊富で演技力も素晴らしい谷津倉に嫉妬する高見堂。だが努力しても空回りが続き…… 講評 鬱屈した青年像を等身大で描いた主人公に好感が持てるが、同時にモノローグが多く、行き当たりばったりにも見える。谷津倉のキャラも良く、後半に向けて盛り上がりもあるが、帯に合うかというとラスト一行への工夫がもう少しほしかった。また、話の時系列がわかりづらいのも残念。
- 『入道雲の向こう側へ』P.N.藤咲准平あらすじ生まれながらに腎臓病を患っている九条瑠璃也は人生に悲観的になっていた。あるとき瑠璃也は懸命に骨折のリハビリを受ける空井由太郎に出会う。彼はいつか空を飛ぶことを夢見ていた。希望に満ち溢れる由太郎を瑠璃也は嫌ったが、そんな態度を意にも介さず由太郎は瑠璃也を高台に連れ出して……講評文章力は高く、物語もよくまとまっているのだが、起こりそうなことがそのまま起こるという展開になっていて物足りなさもある。登場人物も全員が一貫していい人として描かれているが、汚い部分など、人間の多面性を描くとなお良くなる。
テーマ部門 バディ
- 『彼岸の町』P.N.栗谷美嘉あらすじ空に穴が開き、誰にでも見える幽霊が現れるようになった町。日雇いの仕事で働く篠倉の前に、高校生の頃「人助けクラブ」で一緒に活動していた友人、日高の霊が現れる。日高は二年前に不可解な遺書を残して自殺していた。二人は散歩に出るが、町では霊の出現を機に個人・集団問わず自殺が激増していて……。講評 自殺志願者の少女を、日々に鬱屈している主人公と自殺者である友人が協力して救おうとする後半のドラマは盛り上がるが、複雑な世界設定のために序盤がもたついてしまったように見えた。青春小説としての読み味は良いが、バディものとしては補い合う部分に欠け、百合ものとしては細部の描写が弱かった。
- 『空のてっぺん、高くまで』P.N.地図留あらすじ中学3年生の夕は母親からの勧めで男性アイドルオーディションに参加することになり、その会場で2歳年下の参加者・願に出会う。ダンスや歌の他にも特殊な審査が行われるなか、正反対な二人は協力しあいながら順調にオーディションを勝ち進んでいく。しかし、最終審査の直前で夕が突然怖気づいてしまい…… 講評思慮深い夕と天然で無邪気な願のキャラクターを丁寧に描写しながら、二人の関係性をうまく構築できていた。アイドルのオーディションという派手な題材を扱いながら地に足のついた内容ともなっている。終盤で明かされる夕の過去については唐突な展開に思え、構成に関してはもう少し工夫が必要だった。
- 『君に恐怖をワカらせたい』P.N.電気泳動あらすじ京田カタルは怖がりな高校生。口裂け女の噂話を聞いた帰り道、口裂け女に襲われてしまったカタルは角の生えた美少女に助けられる。少女は恐怖の大王を自称するが、自身が最強ゆえにどんなものが怖いかわからないという。少女をレコと呼んで話を聞くことにしたカタルだが…… 講評これまでに何度も描かれた口裂け女を非常に怖く書くことができていて新しい見せ方ができている。描写力が高い。ヒロインもかわいく掛け合いも面白いのだが、主人公との関係性に説明事項が多く、理解が追いつかないうちに物語が進んでしまった。
- 『籠球ガールズ!』P.N.しぃ君あらすじバスケットボールの強豪校にスカウトされた小柄な少女・天山籠守。入部初日に籠守は練習前から一人で掃除をしている、明るく背の高い先輩・高嶺小球に出会う。成り行きで一対一を申し込むと、結果は籠守の圧勝。そんな小球に籠守は強くなる方法を教えると言って…… 講評登場人物が多くなりがちなスポーツものでキャラを絞って書いているのはよかった。ただその分削ぎ落されたであろう部分も多く、いじめや先生との関係などの描写が表面的になっている。また、説明で物語を進めているとろも多く、キャラの感情変化がやや唐突に見える。
- 『板上天下』P.N.桜田一門あらすじ 試合中の怪我で、バスケットボールをあきらめざるをえなかった高校生・田口海。無為な日々を送る海だったがある日、同級生の美少女・市井理湖から、漫才のコンビを組まないかと誘われる。一体彼女の目的は……? 戸惑う海だったが、次第に漫才の世界へ足を踏み入れることに……。講評エピソードの積み方が非常に丁寧。最後まできっちり主人公の心情を追っていく、読みやすさが良い。白眉は、教員が主人公へ告白するドラマ部分で、胸を打たれた。一方、ヒロインの造型は、きわめて漫画的なキャラクターを想起させる描写となっていて、リアリティのバランスがとれているか疑問。今後に是非期待したい作家と、作品。
- 『F&H』P.N.植野ハルイあらすじ ハロルドはロンドンの下町で「人の感情や記憶を読み取る」能力を生かし解決屋を営んでいた。ある日ハロルドは行き倒れていたフィオナという少女を拾う。彼女は不思議な容貌と力を持っていた。フィオナと二人で解決屋をすることにしたハロルドだが……講評キャラの好感度が高く、読後感も良いのだが、序盤に説明されるハロルドやフィオナの能力が後半の展開に活かされていないのは残念。また、バディの関係性が結ばれた直後に分断されてしまうので、バディものとして楽しめるのが物語後半になるのは惜しかった。
編集部講評
- 総評 千葉編集長 今回は『テーマ部門』に絞って募集しました。
そのためか、在宅時間が増えた影響か、前年の3倍の応募をいただきました!
『この帯に合う小説』は、難しいテーマでしたが、金賞の作品は“泣ける=死”ではなく、人の思いの強さを描く人間賛歌で、ラスト一行も伏線をきちっと回収していました。
『バディもの』の金賞受賞作は、登場人物がそこにいるような丁寧な描写と、互いを補い合う化学反応が評価されました。
短編は長編より、全体の構成の無駄のなさや導入のスムーズさが重視されます。
いずれもプロの書き手として大切な武器になるものです!!
たくさんのご応募、本当にありがとうございました。
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