第8回ジャンプホラー小説大賞結果発表‼
銀賞 賞金50万円
- 『あなたの呪い、肩代わりします。』P.N.壁伸一
- あらすじ呪いを肩代わりする能力で、他人が掛けられた呪いを自身が引き受ける仕事をこなす青年・天寿は、動画配信者の優子から、動画越しに感染する呪いを引き取ることに。それは複数の呪いが合わさったキメラ的なもので、従来の対処方法が通じず…。
- 講評呪いを自分に移す能力を用い、無数の個性的な呪いに苛まれる主人公が斬新。恐怖シーンの数やバリエーションの多さ、キャラの成長ドラマにも密度を感じる物語だった。呪いの進化や新世代の呪いなど、新しい恐怖を紡ごうとしている点も高評価。
銀賞 賞金50万円
- 『君はテディ』P.N.雨坂羊
- あらすじサラリーマンの弘光は、女子高生の飛び込み自殺を阻止した際、何者かに背中を押され電車にはねられる。目を覚ますと弘光はテディベアに乗り移り、彼が助けた少女・畔のもとにいた。婚約者と再会するため、弘光は霊能力を持つ畔に協力を願う。
- 講評影のあるヒロインと、ぬいぐるみとして付き添う主人公が、絵になるコンビだった。主人公を経営者一族の長男にして、遺産相続争いに絡めたことがドラマを劇的にし、起伏を強めている。絶望や裏切りに直面しても、主人公が前向きな点も魅力。
特別賞 賞金10万円
- 『教室と悪魔』P.N.斉藤千
- あらすじある朝目覚めると教室になっていた〈僕〉は、いじめに遭う少女・阿窟との対話に成功する。阿窟は一部生徒に支配される教室の人間関係を破壊しようと目論んでおり、〈僕〉は人間に戻る方法を教えてもらうことを条件に、阿窟に加勢を約束する。
- 講評語り手が教室であるという設定が目を引き、虐められる少女の復讐に手を貸すというコンセプトも魅力的。繊細な心理描写でスクールカーストものとして完成度が高く、ドラマの結末も力強い。ホラー賞としてはより恐怖を感じる場面を求めたい。
特別賞 賞金10万円
- 『デリバリー・コープス』P.N.五芽すずめ
- あらすじフードデリバリーのバイトを始めた大学生・氷は、扱う商品が超高額であることを不審に感じていた。ある日、商品受け取りに来た店で、人間が足を切断される現場に遭遇し、バイトを辞める。だが、店の秘密を漏らしてしまったことで脅迫され…。
- 講評カニバリズムネタを現代的にアップデートしつつ、主人公を配達人→店員→調理人と、より恐怖を味わう立場に追い込む手際が見事。残虐場面の描写は鮮烈だが、店に怪物が訪れるなどのファンタジー要素がリアリティを削ぎ、怖さを薄めた点は残念。
次作に期待‼ 最終候補作
- 『悪魔の肉伝説』 加賀谷灯束
- あらすじオカルト研究会所属の少女・かずみは『悪魔の肉』と言われるものを渡され、好奇心に負けて肉を食べる。その夜に見知らぬ男に殺されたものの、翌朝、何事もなく目が覚める。部室に現れた男・饗庭は、平田が食べたのは吸血鬼の肉だったと告げる。
- 講評ホラーの脇役に多い「オカルト好きの変わった子」を一人称主人公として描き、普通の人とずれた感覚をナチュラルに描写して、好感と関心を持てるキャラに仕上げられていた。物語はホラーとバトル系ライトノベルの間で板挟みになった印象がある。
- 『ロリババアVS現代怪異』 饗庭淵
- あらすじ幼女の姿で現代に復活した大妖怪・芙蓉は、女子大生・優子の家に居候することに。隣室の幽霊・滅三川を仲間にした芙蓉は、怪異の衰退を招いた現代怪異を叩き直すと決意する。ある日、芙蓉は優子にスマホを届けようとして駅の「異界」に迷い込む。
- 講評語り手を由緒ある大妖怪にし、「異界の駅」など因果の無さに恐怖のある現代怪異と対峙させる企画が優れていた。キャラのやりとりは面白いものの、時代ギャップコメディに使う尺が長過ぎ、展開が遅くエピソードが少なくなったことがもったいない。
- 『隔世調査委員会 Z-235』日部星花
- あらすじかつての連続失踪事件の関係者であり、『近寄ると不幸になる』と噂される女子高生・朝陽は、同級生の詩矢からバイトの誘いを受ける。その内容は知人の大学院生の身辺調査。バイトの日、朝陽は怪奇現象に襲われ、除霊の力を持つ詩矢に助けられる。
- 講評過去のトラウマを乗り越えようとする主人公や、彼女を支えようとする少年の、ひたむきな姿勢が共感を誘った。怪異の元凶に関する決着が主人公のいない場所で進むことや、「シリーズものの一冊目」のような印象が拭えなかった面が弱点になった。
- 『purify【浄化】』結城戸悠
- あらすじ女優・大月真央は、自殺寸前で彼女を救った青年・浅岡秀司と同居を始めるが、その部屋で怪異が発生。浅岡は、真央が多重人格であり、「咲姫」という人格が浅岡の恋人であることを告げる。真央は、咲姫に実在のモデルがいるのではないかと疑う。
- 講評人格に纏わる特異なアイデアを生かし、二転三転する展開によって、読者を飽きさせないプロット力があった。物語が最小限の空間で進み、ラストの数ページを除いて広がりや絵的な派手さに欠けたことで、新人賞の受賞作としては押しにくかった。
- 『Memento Furor -聖バシリオ精神病棟慰問日誌-』かみのよいずひさ
- あらすじ聖バシリオ精神病棟を慰問する役目を引き継いだ修道士ペテロは、先代であり変死したトマゾ修道士の日誌を読むことになる。トマゾと患者たちの交流はいずれも奇怪な結末を迎えており、トマゾは次第に精神を蝕まれて、幻視を体験しはじめる。
- 講評主人公の置かれた環境が読者から遠くても、シチュエーション、描写で怖いと感じさせられる確かな筆力がある。エピソード数が多く一つ一つの印象が弱まっているため、本筋に繋がるものを中心に取捨選択し、一話ごとの切れ味やドラマを増したい。
- 『A屋敷の怪 あるいはベンディス・ウ・マムの怒り』樽池蘭
- あらすじ一九世紀末ニューヨーク。チャーリーは叔父から一族の屋敷を遺されるが、それは「幽霊を退治した者だけが相続できる」幽霊屋敷だった。チャーリーは霊の存在を信じないまま、屋敷の相続を願う包帯姿の男と霊媒師の女とともに、屋敷に乗り込む。
- 講評主人公の事情、幽霊屋敷の因縁など、ドラマが丁寧に作られ、読み進めやすく破綻のない物語だった。主要キャラの造形も感情移入しやすい。妖精やジャック・オー・ランタンなどの要素ゆえにファンタジー色が強く、怖いと感じづらいことが残念。
最終候補一歩手前作品への一言コメント
- 『悪霊はまだきみを忘れない』鈴木蝶太郎
- 現実とは少しだけ違う世界をリアルに描く技術、エモーショナルな物語を紡ごうとする語り口のうまさが好印象でした。クライマックスがほぼヒロインの過去の話で、主人公のかかわる現在の物語で盛り上がりを作れなかったことが弱点でした。
- 『エラー・マンション』吉木ユウ
- 主人公を追い詰める状況設定や、それに抗おうとする姿勢で、読者の感情を揺さぶる意志を強く感じた、エネルギーに満ちた作品でした。文章力にまだ課題があるので、凝る前にまず危なげのない文章を紡げるよう努力してください。
- 『寄生の子』蓼川藍
- 幻想性の濃い異質な世界を、安定した文章で描けており、筆力を感じます。この賞が求めるのは若い読者向けのエンタメホラーなので、より読者に馴染みのあるシチュエーションや共感しやすい舞台設定で物語を作ってほしいです。
- 『少年少女と妖刀使い』ウラガノ
- 文章力は安定しており、怪異の裏にある事情も明確で、読みやすく納得感の強い作品でした。起きている怪異そのものはホラー的ですが、視点人物たちがバトル系ライトノベルの強キャラ的で強すぎるため、恐怖を感じる余地が少なかったです。
- 『死霊斡旋』サンズイコウヘイ
- 珍しい職業設定を生かした恐怖シーンの演出が見事でした。どんでん返しなどの仕込みも頑張っています。終盤で手ごわい相手と戦い、スケールを上げることには成功していますが、ドラマとしての盛り上がりは作り切れなかったことが課題でした。
- 『デスオタク』英雄飛
- アイドル関連の描写がリアルで、主人公を応援したくなる物語でした。前半と後半で物語ががらりと変わる構成の工夫があるのですが、後半のパートの方が現実に起きうる事件からの飛躍が無く、想像を超える面白さにならないことが残念でした。
- 『ピノッキオの呪い』四宮青
- 意外な呪いと、この呪いが最も訪れてほしくないタイミングに主人公を設定する着想が優れていました。ただし生死に関係のないこの呪いの怖さと規模感は短篇向きのもので、長篇を支え得るアイデアで勝負してみて欲しいです。
編集部講評
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応募作のレベルがはっきりと上がっている、それが特に「企画性の高さ」という面で感じられる回でした。最終候補作として10本が残ったのはその証明です。
呪いを引き取る能力者、テディベアや教室になった主人公、人肉デリバリーの配達員と、既存のホラーの枠を超える個性的なアイデアの作品が賞を制しました。途中の選考で落ちた作品にも尖った着想のものはありましたが、明暗を分けたのはドラマ性です。怨憎や悲劇を軸にしたネガティブなものでも、それらを乗り越えるポジティブなものでも、劇的なドラマは読者の心に響き、読後の満足感を高めます。斬新な企画を思いついたときほど、その企画を生かせる形で読み手の感情を揺さぶることを忘れずに。「怖がらせる」面で弱い作品も多かったので、その点でも努力をお願いします。
次回のホラー賞募集は今後のこのページで発表します!
◆ジャンプホラー小説大賞受賞作家、活躍中!!
- 第7回銀賞受賞作
『今週の死亡者を発表します』(電子書籍)
作:電気泳動
- 第6回金賞受賞作
『ヴァーチャル霊能者K』(『ヴァーチャルウィッチ』を改題)
作:西馬舜人
第2回銀賞作家最新刊、集英社オレンジ文庫より刊行!
- 『たとえあなたが骨になっても 死せる探偵と祝福の日』
作:菱川さかく
◆第2回受賞者が熱筆!『チェンソーマン バディ・ストーリーズ』
- 原作:藤本タツキ 小説:菱川さかく
◆歴代受賞者、多数登場!カバーは『約束のネバーランド』出水ぽすか!
- 『5分で読める恐怖のラストの物語』絶賛発売中!
ジャンプノベル編集部・編