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第6回 ジャンプホラー小説大賞最終結果発表
金賞 書籍化‼+賞金100万円
- 『ヴァーチャルウィッチ』P.N.西馬舜人
- あらすじ 大学生・麻生耕司(あそうこうじ)は、ヴァーチャルアイドル・香月(かづき)りんねの誕生日パーティーへと招待される。だが、その途上、りんねが突如として会場内の電子機器を一斉に暴走させ、参加者の皆殺しを開始する。生き残った自称霊能者・森沢哀(もりさわあい)たちと合流した麻生は、りんねの除霊にはヴァーチャルの霊能者が必要だと推察し……!?
- 講評 VTuberに憑依した悪霊という着想が良い。さらに電子機器を操った殺戮、ヴァーチャルの霊能者による除霊と、どんどんアイデアが発展していき、最後まで面白く読むことができた。また、閉鎖空間を描いた作品にしては珍しく、登場人物が対立せずに協力し合うという明るさも題材の面白さを引き立てた。
銅賞 賞金30万円
- 『奇跡の島』P.N.霧野つくば
- あらすじ 医師・皆沢恭隆(みなざわやすたか)は、現代医療に限界を感じ、長崎県の離島である池島(いけしま)へ短期派遣を決めた。池島は病気にかかる島民が長年おらず一部では"奇跡の島"と呼ばれているという。同じく移住してきた洋一(よういち)と信二(しんじ)の兄弟とともに、"奇跡"の正体を調査する恭隆は、島には"シラカミ様"という土着信仰があることを知り……!?
- 講評 主人公や島民に根づく悪意を捉えた心理描写が上手く、虫というモチーフも効果的に扱えている。物語の構成力も高いが、他方で、起こりそうなことがそのまま起こるという展開の意外性のなさや離島の扱い方への既視感もあった。また洗脳された島民や後半の主人公の変化についてはもっと掘り下げてほしかった。
特別賞 賞金10万円
- 『虚子の底』P.N.壁伸一
- あらすじ 心霊現象を起こす物質・虚子(きょし)が発見されて百年。高校生の黒木(くろき)は生まれつき虚子を感知できない「ヌル」であり、特異体質ゆえ周囲から浮いていた。ある日高校で自殺騒ぎが起き、出雲清葬局員(いずもせいそうきょくいん)を名乗る女性・柳(やなぎ)と出会って、ヌルの黒木にしかできない仕事の勧誘を受ける。
- 講評 「虚子」という独自設定が作中で上手く説明できており、特異体質の主人公が抱える孤独も丁寧に描かれていたので、感情移入しやすかった。ホラー要素についてはやや散発的な描き方となっていたので、人物・設定面とストーリー・演出面のバランスを心がけてほしい。
特別賞 賞金10万円
- 『ナルキッソスの怪物』P.N.荒衛門
- あらすじ 母親に虐待される少女・ケイは、クラスメートのナツメと親しくなるうちに母への抵抗を企て、ナツメから教わった「ハクジキさま」という異形に母を捧げることで自由を手にする。更に秘密に近づいた友人をも始末したが、自身らがハクジキさまに追われることになり…。
- 講評 ケイとナツメの危うい関係性が上手く書けている。一定のルールのもと追ってくる怪物の恐ろしさと逃走劇のエンタメ性でページをめくらせる力の強い物語だった。ナツメとハクジキさま、二者の異なる脅威を書こうとして物語の焦点がブレてしまったことが残念だった。
次作に期待‼ 最終候補作
- 『顔の知らない友人』 P.N.泉いつか
- あらすじ 大学生の稲葉(いなば)は、他人に本当の自分を見せられないという悩みをもっていたが、ゲーム関連のオフ会で遠藤(えんどう)という青年と知り合い、親交を深める。しかし稲葉の周辺で、彼女がストーカー被害に遭い、友人が姿を消すなど異変が起こる。稲葉は遠藤に疑いの目を向ける…。
- 講評 徐々に迫ってくる、表面的には親しげだが内面が無い相手、という現代的な恐怖を、地に足のついた生々しい描写で描けていた。普通の大学生活パートが間延びしていたり、主人公自身が歪んでいる仕掛けが長編を支えるには弱いなど、短編向きの物語だったのが残念。
- 『えみこ』 P.N.徒座役籐
- あらすじ 駆け出し記者の反町(そりまち)は、「エミコ」という作品を作り続ける彫刻家、山崎健吾(やまさきけんご)のアトリエに取材で向かう。これまで山崎にインタビューを行った記者は、相次いで愛する相手と死を遂げていた。山崎は反町に対して、「エミコ」のモデルである女性の物語を語り始める…。
- 講評 近づいた者は愛する者と死を遂げるという彫刻の呪いの設定が面白く、ホラーとして印象的なシーンの演出もできていた。枠物語形式は導入が巧みだったが全体としてみれば構成のバランスが悪く、回想パートが長すぎる、という印象になってしまったのが弱点だった。
- 『黒い眼差し』 P.N.電気泳動
- あらすじ 女子大生・白井優香(しらいゆうか)は、ある夜、自宅への帰り道で巨大な頭部をもった化け物に遭遇し、追いかけられる。化け物に捕まって頭を握り潰され、死を覚悟した瞬間に自宅で目を覚ます。ただの悪夢かと思われたが、その日を境に、毎晩0時になる度に、その化け物が現れ…。
- 講評毎晩殺されるルーチンの中で、謎のカウントダウンや同じ体験をした人の存在で恐怖を高める演出が優れていた。化け物の正体が不明のまま終わってしまい、一種のループ落ちにたどり着いてしまうことで、既視感のある物語になってしまったことがもったいなかった。
編集部講評
- ホラー賞宣伝隊長・ミニキャッパー周平
- ●総評
怪異となったVTuber、電子の霊媒師、電化製品を駆使する殺戮などなど、現代にしか書けないホラーを追求した『ヴァーチャルウィッチ』が2年ぶりの金賞に輝きました。今の若い読者にとって斬新であり面白いと思えるであろう発想・着眼点は、この賞においては最大の評価点です。また、読者を飽きさせまいとするサービス精神も旺盛でした。今回の応募作全体では、女性の恨みや憎しみが安易な形で怪異の源になる作品が目立ったので、読者は男女ともにいることを意識しつつ、ホラーの根幹を丁寧に書くことを忘れないように心がけて欲しいです。
「最終候補一歩手前」の作品の選評についてはnoteで公開予定!
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