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第4回 ジャンプ恋愛小説大賞 最終結果発表

  • 銀賞 賞金50万円+読者賞 賞金10万円 『夏生』P.N.岬れんか あらすじ『プリンセスタイム』……いわゆるレンタル彼氏を派遣する店だ。今日も絶えず様々な女性から依頼が届く。婚期を逃したシナリオライター、心を病んでいる少女、夫との暮らしに迷いを感じる主婦。彼女たちを温かく包み込むのは店のエース・夏生。どんな女性も愛することができる天才。その正体を知るものは、誰もいない。今のところは……。 講評5人の女性と、レンタル彼氏店のキャスト・夏生による群像劇。それぞれの女性たちの物語を通して、夏生の恐ろしい実像が浮かび上がっていく。構成の巧みさと、それを支える描写力は抜きんでたものがあった。ディティールへの目配りもよくなされている。しかしこの物語の面白さはサスペンスの面白さであり、『恋愛』小説なのかは議論の余地がある。

  • 銀賞 賞金50万円 『コーラルピンクのその先に』P.N.植野ハルイ あらすじ 高校2年生の石部臣はある日学校で手帳を拾う。その持ち主はクラスで少し浮いた存在のギャル・二ツ木咲花であった。彼女と話すうちに、臣は咲花が実はアニメオタクであることを知る。さらに咲花から同じクラスの早川翔馬のことが好きだと打ち明けられた臣は、その恋を成就させるため、彼女をイマドキ女子にプロデュースすることになり…!?講評 登場人物の好感度が高く、各々の関係性の推移も丁寧に描かれている。特に姉の影響でメイクに詳しいという臣の設定が効果的に使われていて、印象的な場面を作ることができている。読後感も爽やかでよかった。しかし、咲花がオタクというキャラ付けが記号的になっているのが惜しい。文章に誤字脱字が多いのも要改善。

最終候補作品

  • 『バイバイまたね、クドリャフカ』P.N.くろのあずさ あらすじ 一年以内に月が地球に落ちてくるという。破滅を回避できる確率は7%。終末が間近に迫った世界で、高校生の紺野(こんの)ほのかは何をするでもなく生きている。ふと思い出すのは『俺、宇宙に行きたいんだ』と言った安曇穂高(あずみほだか)のこと。不意にほのかは、足を彼の家のほうへ向けた。これがほのかの、旅のはじまりだった講評抒情的なロードムービーのように終末に向かう世界を描いた作品。ひとつひとつ作者が自分らしい表現を積んでいこうとしているのが伝わった。旅の途中、登場人物が増えていくにつれ、恋愛を描くよりも世界の情景描写に力点が移ったように読め、面白さの輪郭がぼやけてしまったのが残念。

  • 『この恋がもう一度始まりますように』P.N.宮本かれん あらすじ田舎町に暮らす高三の眞人は洋館に暮らす少女・あづみと出会う。純真無垢なあづみの魅力に取り憑かれる眞人。だが、友人の勇蔵と幼馴染の美紀はそれをよく思っていない。眞人はあづみの不自然な体重や様子をきっかけに彼女がロシアのバレエ学校の生徒だと知る。そこには世にも恐ろしい秘密があった。美しい破滅に向かって疾走するラブストーリー。講評周囲からの束縛や視線を振り払って恋愛を成就させようとする少年と、過酷な運命を身に宿しながらそれでも自由に踊る少女。阻害され孤立していく二人の激しくも苦しい恋愛が非常に生々しい一方で、その生々しさがエンターテインメントとしては過剰でもあり、審査会では意見が割れた。読む者の衝動をかき立てる筆力は申し分ないので、完成度を高めることを意識して書き続けてほしい。

  • 『みんなの知らない伊月先輩』P.N.電気泳動 あらすじ入学式に向かう途中の事故に始まり、不幸続きの高校生・小島空太。二か月遅れて始まった高校生活だったが、入院中に留年の危機を救ってくれた生徒会長・久々宮伊月に恩返しをするため、生徒会に入ることを目指す。しかし、伊月は文武両道、超がつくほどの優等生で周りからは尊敬と共に距離を置かれていた。生徒会の仕事は自分一人でこなせると言われ最初は断られたものの、幼馴染・高橋優日の助言もあり、空太は何とか生徒会に入るが…!? 講評主人公と優秀すぎる生徒会長のほとんど二人きりの生徒会に人気者の幼馴染を加えた三角関係という面白い構図ができているのだが、淡々とした日常生活が続いており物語の起伏に欠ける。楽しさ、羨ましさや恋愛のドキドキ感がもう少しほしかった。委員長のキャラクターについても、優秀であるという設定面ではしっかり描かれているが、設定を外したキャラそのものの魅力という部分については、もっと掘り下げられると良かった。

編集部講評

  • ○小説賞担当 JUMP j BOOKS編集部 六郷たくさんのご応募ありがとうございます。どの作品も、いずれ劣らぬ良作でしたが、課題も抱えていました。編集部のnoteには、斜線堂有紀先生や十和田シン先生による恋愛短編を多数掲載しています。参考にぜひ読んでみてください。次回は節目となる第5回、皆さんのご応募、お待ちしております。

  • ●JUMP j BOOKS編集部 編集長 千葉今回銀賞を受賞した『夏生』は、ページを繰る手が止まらない作品でした。構成も凝っていて、かつ心情描写が細やか。キャラたちの孤独が共感できるレベルで描かれていました。それなのに金賞にすることができなかったのは……“恋愛”が小説全体の一要素であるように感じてしまったからです。

    “恋愛”は高度な感情です。その人の世界を変える力があります。読者にそれを追体験してもらうために、世界観・キャラクター配置を工夫するのも効果的ですが、心情の変化を緻密に描き切ることがやはり一番の近道だと思います。逆にキャラクターの口調ひとつで、台無しになることも。映像化で誰に演じて欲しいか想像すると、さらにキャラクター造形に説得力が増すかもしれません。

    真正面から"恋愛"に取り組んだ、読後に恋をしたくなるような作品を、お待ちしています!

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