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第5回 ジャンプ恋愛小説大賞 最終結果発表

  • 銀賞 賞金50万円  電子書籍にて刊行決定! 『夏の窓』
    PN.郁島青典
    あらすじ中学二年生の鈴江風香は、自分の描いた絵がコンクールへの出品作に選ばれずショックを受ける。代わりに選ばれた作品『夏の窓』を描いたのは隣のクラスの朝井大和だった。大和と話すうちに、彼の才能を実感する風香。しかし、ほどなく大和は転校してしまう。二年が経ち、高校生の風香の前に再び大和が現れるが、彼は変わっていて……!? 講評中学生から大人になるまでの二人の交流を丁寧に描いている。絵画についてもよく調べていることが伝わり、実際に『夏の窓』を見たくなるほどである。他方で風香が恋愛と絵のどちらに対しても冷めているため、ドラマの盛り上がりが弱くなっている。もう少し感情移入したかった。大和が変わるきっかけの部分がぼかされているのも惜しい。

次作に期待!! 最終選考候補作

  • 『アルブレヒトはきっと恋に落ちていた』
    PN.くろのあずさ
    あらすじ高校二年生のシュウは、幼い頃からプロのバレエダンサーを目指していたが、志半ばにその夢を諦めることになった。 鬱々とした日々を送るシュウだったが、ある日、〝良縁を結び、悪縁を断ち切る〟と有名な小さな神社に、ふらりと立ち寄った。そこで彼は、セーラー服を身に纏ったユイと名乗る幽霊のような不思議な少女と出会う……。講評丁寧でわかりやすいテキストの積み重ねで、読みやすく伝わりやすかった。今回の物語のモチーフは、類例が無数にあるもの。差がつくとしたらやはりキャラクターの面白さ、だがそこに特筆すべきものではなかったのは残念。意外性のないラストも惜しい。

  • 『どうせ灰になってしまうのに、おいしいものが食べたいよ』
    PN. 榎並 崚
    あらすじカメラマンであるリーチは、ビンゴさんという女性に惹かれている。リーチには、実は誰にも打ち明けられない秘密があった。小学生の時に交通事故に遭い、自分を庇った人が亡くなった過去だ。偶然出会った休日に、リーチは生まれて初めて自分の過去を打ち明けることができた。一方、ビンゴさんにも秘密があった……。講評“エモ”な文体、こだわりが伝わるセリフはもしかしたら読む人を選ぶかもしれないが、読み手によっては強い共感を呼ぶと感じた。ドラマにおいては、人の死を安易な道具として使いすぎではないか、という意見が審査で交わされた。受賞に至らない大きな理由になってしまった。

  • 『裸の水深』
    PN.三宮 わかな
    あらすじ高校生のキョウコは、友人との仲たがいで周囲から孤立している。 悪い噂を広めているのが、実は中学時代の好きな人で、今も憧れている男子だったことはショックだった。  ある日、キョウコはもう学校へ戻らないと決め、自転車で遠方の自宅まで帰る。途中で中学の同級生だったジョンに再会するのだが……講評『恋愛を主題としたエンターテインメント』とは言いづらい作品で、受賞は逃した。しかし、この作品が持つ迫力は無視できなかった。登場人物が軒並み好感を持てないところは、逆に言えばよくここまで嫌なところを見逃さず書き上げた、ともいえる。この著者が次に何を描こうとしているのか知りたくなった。

  • 『wish』
    PN.葉鳥紡
    あらすじ四年前に交通事故で恋人を亡くした桜井拓望の元に、死んだはずの恋人である逢沢陽希が帰ってきた。何が起こっているのか分からない二人だったが、再会できたことを喜び、2人は日常を受け入れていく。 しかし当然、奇跡はいつまでも続くものではなかった……。講評小説としての読みやすさは応募作の中で随一だった。一方、エンターテインメントとしてドラマの盛り上がりに欠け、選外となった。作中のオリジナル設定『wish』の設定・ルールを共有しづらく、物語の盛り上げに水を差しているように見えた。

  • 『ねぇ、今どんな顔をしている?』
    PN.加賀谷灯束
    あらすじ高校一年生の安達将紀は、ずっと好きだったクラスメイト生雲あきと付き合うことになった。喜ぶのもつかの間、新型感染症が流行し始める。学校は休校になり会えない日々が続く二人。やっと感染状況が落ち着いたかと思われた矢先、なんと安達はアマビエになってしまう。原因がわからないまま、アマビエとして暮らす安達。周囲からは好奇な目で見られ、マスコミにも追われる始末。安達は生雲とともに人間に戻る方法を探すのだが……!?講評引き込まれる導入で先がどうなるのかと読まされる。アマビエの生活という予想もつかないことを説得力をもって描けている。ただ、中盤以降は起こりそうなことがそのまま起こり、淡々とした主人公と相まってドラマが弱くなっている。また、終盤アマビエになった原因がわからないまま人間に戻るのは残念。話ではコメディ部分や周りのキャラクターが面白いのだが、恋愛要素が弱く、主人公と彼女との関わりを掘り下げてほしかった。

  • 『初恋を手放した頃に』
    PN.根本美佐子
    あらすじ中学二年生の赤松は、小学生からの幼なじみである菜々子のことが好きだった。初恋だった。だが、菜々子は中学生になってからいじめに遭ってしまい、野球部の赤松は仲のいい部員たちに流されて助けようとしない。ある日、ピッチャーの月島が菜々子と付き合いだしたことをきっかけに周囲が恋一色になってしまい、赤松は菜々子とは別の彼女を作って恋をしてみるが…。初恋を手放せない中学生の青春と妄執。講評中学生のわがままな恋とままならなさを非常にうまく描いた作品。恋の甘さではなく、その気持ち悪さや暴力性を著者独自の視点で捉え、物語として表現する力量に作家性を感じた。登場人物たちの奇妙な行動や違和感などディテールが見事で、文章力も高い。エンターテイメント性を意識して新たな作品に取り組んでほしい。

編集部講評

  • 担当者総評たくさんのご応募、ありがとうございます。応募作の中から特に高い評価を獲得した『夏の窓』が銀賞となりました。この作品は課題もありますが、もっともまっすぐ恋愛を話の軸に据えていました。逆に言うと、応募作の多くは恋愛ではなく、違う要素を話の主題に選んでいるように見受けられました。恋愛小説の難しさを感じた選考となりました。今回でこの新人賞は一区切りとなります、これまでの応援、ありがとうございました。

  • 編集長総評 コロナ禍も3年目に突入し、生活はもちろん恋愛のかたちも激変していることを日々実感しています。小説という表現は、それについていけているのか、そう考えさせられた今回の選考でした。

    応募作それぞれに“恋愛×◯◯”の組み合わせの工夫がありましたが、銀賞を受賞した『夏の窓』の恋愛×美術部(または油絵)が一番違和感なく、恋愛というテーマを広げ、そして深めることができていました。

    恋愛賞は今回で募集を終了いたしますが、小説のテーマとして「恋愛」とは一番世相を反映するものだと確信しています。
    他のジャンルの小説であっても、今を描くために恋愛と向き合う覚悟を持って取り組んでみてください。

    引き続き、Jブックス編集部では二つの新人賞で、まだ見ぬ傑作をお待ちしています。
    たくさんのご応募をありがとうございました。

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