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ジャンプ小説新人賞2019 最終結果発表


  • 小説フリー部門 銀賞 賞金50万円 『地下芸人』P.N. おぎぬまX あらすじ オダが中学時代からの友人である広瀬とお笑いコンビ「お騒がせグラビティー」を結成して早十年。未だ一向に売れる気配がなく、周囲の芸人も次々と引退していく中、次第に何が面白いのかもわからなくなっていくオダは、ついには広瀬からコンビ解散を告げられて しまう。解散まであと一か月。オダが最後にすることは……? 講評 ひとつひとつの描写にリアリティがあり、登場人物もそれぞれが魅力的。オダと広瀬が対立・衝突するのではなく、互いに信頼し合っているからこそ、売れない状況が辛いという構造を巧みに描けている。ただ、前半しばらくは何の話なのかがわからないので、解散の 提示を早めて、物語の縦軸が早くからわかるようにしてほしい。

    おぎぬまX 『地下芸人』集英社文庫より刊行決定 !! おぎぬまX インタビューをnoteにて掲載中!!
  • 小説フリー部門 特別賞 賞金10万円 『記憶遺言』P.N. 栗谷美嘉あらすじ 菜種友色は「死者の記憶を読み取る」能力の持ち主。町で起きる動物虐待死事件の手掛かりを掴みながらも事件解決には及び腰だった。そんな中、美術部の先輩が殺害される。友色は、その犯人を動物虐待犯と同一人物ではないかと考えた。友色は、「死者の声を聴く」能力の持ち主である生き別れの姉・華憐に相談へ向かうが……講評 能力を通して見せられる残虐シーンの描写が生々しく、インパクトが大きい。事件の真相にかかわる手がかりをさりげなく提示するなど、伏線の技術に秀でており構成の力がある。一般人である主人公と、優秀な姉との関係性も魅力的。終盤、話のスケールを広げすぎているので、作品のサイズにあった物語作りを心がけて欲しい。
  • 小説テーマ部門 会話劇 金賞 賞金50万円『女子高生、北へ』P.N. 松明あらすじ 福岡の高校に通う楓子と瑠衣は、二年生の夏休み、博多駅から青春18きっぷを使った鈍行の旅に出発する。二人にはかつて慧人という共通の友人がいたが、彼は去年の冬、不運な事故で亡くなっており、二人は彼の墓参りのため北海道を目指していた。電車に揺られ ながらとりとめのない会話を繰り広げる二人。その中で、楓子はある秘密を告白する…… 講評 対面して何時間も過ごさなければならない鈍行列車の旅という設定を効果的に使っていて、二人の会話を通じて慧人の死の真相や楓子の旅の目的が徐々に明らかになっていくという構成が見事。随所に駅名と時刻が挿まれることで旅の臨場感も出ている。後半につれて非現実的な展開になっていきつつも読後感は爽やかなのもよかった。
  • 小説テーマ部門 会話劇 銅賞 賞金10万円『彼女は成仏したがっている』P.N. 接骨木綿あらすじ部室棟の空き教室には、地縛霊である「彼女」が住み着いている。毎日放課後、生徒である「ボク」は空き教室に向かい、成仏を望む「彼女」の為に、除霊に効果があるとされるものを試している。しかし、塩はすり抜けるしお札は「彼女」の見た目が変わるだけ、何をやっても効果がないか、おかしな反応が返ってくるばかりで……講評 二人に絞った登場人物のキャラ立てと、会話の面白さに焦点をおき、お題をよくくみ取れた作品。「教室内で行われる少年と幽霊少女の会話」という制約の多い設定に対して次々新たなネタを繰り出せており、アイデアの引き出しも多い。チャットノベルなどに最適の作風である。地の文や構成など、一般的な小説の筆力も精進を。
  • 小説テーマ部門 お仕事 銅賞 賞金10万円『アネモネの花』P.N. 岩沢泉あらすじ死後もなお国民的に愛される大作家・西野隆。大の西野ファンである「僕」は彼の出身地にある博物館で働いている。あるとき、西野隆の娘が博物館を訪れ、父の私物を博物館に寄贈したいと申し出る。喜んで引き受けた「僕」は寄贈品の中に隠された一通の手紙を見つけるが、そこには西野隆の知られざる一面が記されていた……講評 学芸員としての自分と西野隆という作家のファンとしての自分の間で揺れ動く感情を丁寧に書けている。作中に出てくる西野の個人的な手紙も巧みに文体を変えて表現できている。他方で、悩んだ末に主人公が出す結論に関しては、お仕事小説として評価していいのかという声もあり、編集部内でも意見が分かれた。

次作に期待!! 最終候補作

小説フリー部門

  • 『夏のジ波塔、ゆれる空』P.N.岡和秀あらすじ 人々の間で記憶が食い違う――『想起揺れ』と呼ばれるその現象が観測されてから二十年。大学生の弓削は、現象調査に協力するアルバイトをしていた。夏休み、レポートのために小さな島・大鷲島にやってきた弓削は、双子の姉妹・佐季と佑希と出会う。彼女たちとともに、弓削は『寂しさ』が呼ぶ奇妙な事件へ誘われる……講評この書き手の将来が非常に楽しみ。感傷的な文体で表現された、この書き手だけが持っている世界観、キャラクターの価値観は他の作品には無いオリジナルなものだった。反面、物語の構成は難がある。起伏の無い展開、読者を引っ張るドラマ性の不在は、読む人間を選ぶ。今後の成長に強く期待したい。
  • 『令和ニンジャワールド』P.N.三本矢まういあらすじ令和の元号発表と同時に政府が行った『忍解禁宣言』により、正体を隠し続けてきた忍者達が日本の至る所で活動を開始した。時が経ち令和十年。忍者としての素質を持たない花丸大賀はクラスの忍者達から執拗な嫌がらせを受けていた。花丸は仕返しをしようと、自身の持つ工学知識で主犯格の生徒を攻撃してしまうが…… 講評令和に忍者が復活する、という冒頭の強い引き以外にも、地に足のついた文章・構成となっており、よくまとまっていた。参考にしている多数のアメコミ作品へのリスペクトも感じられ、好感がもてる。一方で、そういった作品の好きな要素を詰め込んだだけの状態にもなっており、オリジナリティという点では物足りなさが目立った。
  • 『失踪少女は、宇宙の中』P.N.仁志原駿介あらすじ 小学四年生の悠木飛翔、月岡あかね、三村直人、そして飛翔の幼馴染の羽鳥みずきは夏休みの宿題のため町内にある神社を訪れる。しかし、そこで直人とみずきが突然現れたUFOに連れさらわれてしまう。12年後、大人になった飛翔とあかねは偶然再会し、事件のあった神社へ行くことに。すると再びUFOが現れ、今度は二人をさらう……講評 キャラクターや展開が素直で明るく好感度の高い作品。物語の構成もよくできている。ただ、主人公たちが宇宙に行く前と後で物語の雰囲気が一気に変わってしまうため、対象となる読者年齢が見えづらくなっている。またキャラが予想通りの言動をとることが多く、物語の先が読めてしまうので、もう少し捻りがほしかった。
  • 『木曜日の天使』P.N.絵須圭あらすじ人類は〈塔〉に観測・記録されていて、死んだ命すら復元される世界。〈塔〉の観測対象外である異能の怪物〈悪魔憑き〉を消滅させるために、〈神父〉である神林一樹は、その能力をもつ〈天使〉・宮尾薫子とともに行動していた。しかし、一樹もまた、とある出来事で〈塔〉の観測対象外となった例外だった。講評表現力は達者で、会話からしっかりと登場人物のキャラクター性がわかるなど、作品の雰囲気作りに長けていた。序盤の展開もその後を期待させるもので評価ができる。しかし、中盤がかなり間延びしており、構成には工夫が必要。作者の中だけで完結してしまっている、明かされなかった設定部分についても詳細な説明がほしかった。
  • 『東向きのエミル』P.N.筒城灯士郎あらすじマンハッタンのタワーマンションに、CIAの男が血塗れでたどり着く。男はケイドロに興じていた四人の少年少女に黒いケースを託して息絶える。ケースの中身は核ミサイルの発射コードで、テロリストに狙われていた。SWATが到着するまでの間、テロリストからケースを守るため、四人は封鎖されたマンション内を駆け巡る。講評少年少女がケイドロで鍛えた技術でテロリストを翻弄し、世界の命運をかけて戦うというハッタリは魅力的だった。マンションの管理人が殺害される場面などはスリルに満ちていたが、序盤で四人の生還を示す未来視点の記述があったこと、途中でテロリストが主人公たちを殺さないと決めたことなどで、緊張感が削がれたのが残念。
  • 『コニー・ドリトルとの戦後冒険記録』P.N.雪村勝久あらすじ1954年、花枝誠は上京した友人たちと再会するため東京に向かう。しかし集合場所のアパートで遭遇したのは、友人四人の遺体と、包丁を持って呆然としている親友、眞田早紀の姿だった。早紀が逮捕され途方に暮れる誠は、東京で出会った英国紳士、ジョン・ドリトルと、その孫コニーに励まされ真犯人を捕まえると決意する。講評世界名作のキャラであるドリトル先生を登場させ、動物の言葉を解する能力がカギとなる異色ミステリとしてフックがきいている。幼くして弁護士資格をもち主人公のパートナーとなるコニーの賢く可愛いキャラクターが印象的。被害の大きさと動機がかみ合っていないこと、事件解決時にコニーが活躍しないことなどが惜しかった。
  • 『トワのカナタ』P.N.岩沢泉あらすじ研究者の雪村は政府からの依頼で介助用の人工知能を作ろうとして いた。トワと名付けられた人工知能は、次第に人間の感情を理解するようになり、実用化へ向けたテストが行われることになる。その 相手に選ばれたのは雪村の娘の彩花であった。他の人間とは違った感性を持つ彩花と触れ合うことで、トワは彼女に恋愛感情を抱くようになる……講評AIに感情が芽生えるというテーマ自体に新しさはないものの、人間の嫌な部分を捉えるのが上手く、文章力も高い。最終的にバッドエンドになるのは良いのだが、それまでの中盤に読ませるための工夫がほしかった。周りの研究員のキャラクターや学習に使われる日本の古典文学など、掘り下げればもっと面白くなりそうな要素が多いだけに惜しい。
  • 『やっぱり私は』P.N.霧野つくばあらすじ「私に教師は向いてない」が口癖のデモシカ教師、柳原沙耶は就活に失敗し、産休代替として成川学園に着任した。彼女は周囲のベテラン教員や熱血な新任教師に劣等感を抱きながらも、生徒に醒めた対応を取り続ける。そんな彼女はある日、砂を盛られた大川という生徒の靴を目撃する。それが彼女自身の苛めの記憶をフラッシュバックさせて……講評デモシカ教師や苛め問題など学校を取り巻くネガティブな題材を扱いつつも、全体を通じて明確な悪人が不在で優しい世界観を作れている。読後感も良い。教師や生徒の描写にもリアリティがあったが、同時に、リアルすぎてエンターテイメント性に欠けるようにも思われたので、何らかの事件性があるとなおよかった。
  • 小説テーマ部門 会話劇

  • 『ベアフレンド』P.N.円目旭あらすじ「ボス」に唆されて盗みを企てた「俺」は捕まってしまい、見知らぬ部屋に閉じ込められてしまう。その部屋にはなぜか人の言葉を話す不思議な「テディベア」の「ジョー」がいた。最初こそ「ジョー」の傍若無人な態度に振り回されていた「俺」だったが、次第に荒々しくも人情味あふれる言動に心を動かされ、二人で脱走のための準備を始める。講評悩みを抱えていた「俺」とそれを叱咤激励しながら変えていく「ジョー」はまるで選手とコーチのような関係性。人とテディベアという組み合わせにすることで独特の雰囲気を作り出すことに成功している。全体を通して、状況やキャラクターの設定で不明な部分が多く、もう少し読者の視点に立って創作することも心がけてほしい。
  • 『ストレートガール』P.N.新庭紺あらすじ伊予はどんな声も声帯模写することができる、声優志望の高校生。声優になるため、専門学校に行くことを決めるが自力で学費を稼ぐ必要があった。スキルを販売するサービス「愚痴聞き」を始めると、芸人志望のハーフのイケメン・黛から依頼がくる。黛の愚痴を聞いているうちに、自分と一緒にコントの大会に出てほしいと頼まれ……講評会話のテンポがよく、終始明るいノリで書かれていたため、最後まで楽しく読むことができた。小説では不利と思われる声帯模写の特性も、様々なキャラクターを演じさせることで、会話にバリエーションを生み出している。しかし、作風が素直すぎるゆえに、キャラやストーリーに意外性がたりなかったのが残念。
  • 『私は詐欺に遭いつつある』P.N.最中喫茶あらすじ「二十代女性」「年収五百万円以上の男性」が参加条件の婚活パーティーに集まった十人の男女。だが会場に運営がいない。もしかして詐欺?と訝しむ参加者だが、せっかく集まったのだからという理由で婚活パーティーが始まってしまう。ITベンチャーでWEBデザイナー、年収八百万の原山は結婚相手を見つけられるのか。アイロニーたっぷりの婚活会話劇。講評婚活の奇妙な会話と空気感を、行き届いた表現と構成で描く良作。主人公のメモ魔的な行動/性格/視点が皮肉に満ち、そのメモこそがうまく生きられない主人公の偏見を強化しており、人間性についての発見がある。全編にわたり鋭くもクスッとさせられるアイロニカルな表現が用いられ、読むこちら側にも偏見を突きつけられるようでドキッとさせられる。
  • 『貴殿は猫である』P.N.新馬場新あらすじ人生に躓き無為に日々を過ごしていた男は、冬のある日、一匹の猫を拾う。男は言葉の通じない猫に自身のこれまでの人生や現在の境遇について語っていく。男は猫との生活を通し、自身の人生と向き合いはじめた。季節は巡り、秋。男が世の中の大人像や、今どきの恋愛観に悩んでいると、吾輩と自称する人語を話す白い猫が夢の中に現れて……講評猫に悩みを打ち明ける男と、それを気まぐれに聞く猫との関係性が愛らしい。猫しか話し相手の居ない青年の孤独を、深刻になり過ぎない塩梅で書いており、読後感もよい。ただし、物語の半分ほどは男が一方的に猫に話しかけているだけなので、会話劇としては弱く、ストーリーが終始一定の調子のため、感情移入もしづらかった。
  • 小説テーマ部門 お仕事

  • 『それは、仕様です』P.N.雨野功介あらすじメーカーの情報システム部門で働く久瀬達真は「接した人のググった履歴がわかる」という能力を持っていた。あるとき、履歴が見えない大学生、遠藤ゆかりがインターンシップにやってくる。ゆかりは、ネットをほとんど使わないアナログ人間であった。インターンシップの最中、工場で利用しているツールの不具合報告が寄せられる。講評主人公が持つ能力が現代的かつ、それをアナログ人間と対比させる設定が面白い。仕事にまつわる謎のサイズも丁度よく、テーマをしっかりと意識して書かれた作品であった。しかし、謎の解決に主人公とヒロインの設定があまり活かされておらず、「仕事」と「謎」、「人間ドラマ」がうまくかみ合っていない部分も見受けられた。
  • 『魂のルセット』P.N.奈坂秋吾あらすじ亡き母から妹を笑顔にさせるために、お菓子を作ってあげてほしい、と頼まれた宗司は、お菓子作りを学ぶためにパティスリーの門を叩く。パティシエは非常に厳しく過酷な仕事だったが、母との約束を果たすために宗司は必死に耐えていた。その甲斐あってお菓子を作らせてもらうことになったのだが、理解できない理由で完成品を捨てられてしまい……講評すべての要素が危なげなくまとまっており、確かな筆力が感じられた。華やかに見えがちなパティシエという職業の裏側やその矜持も描かれており、読み応えもある。一方で、設定、構成、キャラクターが型にはまりすぎているきらいがあり、登場人物の言動もどこか予定調和に感じることも。「自分だけにしか書けないもの」を探す努力を続けてほしい。
  • 『異世界召喚の裁判所』P.N.紙無月あらすじ検事である「俺」は英雄・ナオト・ヤマダを過剰防衛の罪に問うべく刑事裁判に出席していた。被害者二人の男はある夜、ソフィアという美少女に声をかけるも、拒まれたことに激昂。異世界から召喚されたばかりのナオトに制止され、ナオトにも暴行を加えようとし、強力なスキルで返り討ちにあっていた。状況は明らかに被告有利を示しているが……講評「異世界転生モノ」をメタ的に扱っており、それを「法廷モノ」と掛け合わせる発想がよかった。裁判の雰囲気もよく描けており、中盤までは展開の転がし方もうまい。終盤に明かされる主人公のチート的立ち位置・スキルは、「法廷モノ」の醍醐味であるどんでん返しの要素を薄めてしまっており、ご都合主義にも思えてしまうのが残念。

編集部講評

  • JUMP j BOOKS編集部 編集長 千葉 今回、『フリー部門』『テーマ部門』それぞれに読ませる作品が多く、選考会でも点数が割れ、議論が白熱しました。 その中でも特に私は、会話劇の可能性を感じました。 制約が多く難しいテーマにもかかわらず、
    ・セリフや行動がキャラクター自身から生まれたように感じる
    ・キャラの数や配置が的確である。
    以上のような要素を満たしていたと思います。 次回はテーマ部門のみの募集になります。さらなる意欲作を、お待ちしております!
ジャンプ小説新人賞2020
◎応募締め切り
2020年10月31日

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