「インフルエンサー?」
「そうそう! そういう人たちが集まる合コンなの!」
トド松はバイト帰り、同僚の女子二人とファミレスに寄っていた。
490円のハンバーグランチとドリンクバーを注文して料理を待っている間、女子の一人がそんなことを言い出した。
「インフルエンサーっていうのは『影響力のある人』って意味! で、今度そういう人たち限定の合コンがあるの! 基準はインスタフォロワー数一万人以上って言ってたかな」
「フォロワー数一万人……」
インフルエンサーはよくわからなかったが、インスタならトド松にもわかる。
フォロワー一万人と言えば、一般人ならかなりの人気者だ。芸能人やカメラマンなどフォロワーを稼ぎやすい職業ならわかるが、肩書きのなにもない人間がそれだけのフォロワーを獲得するのは至難の業。 いわばリア充の中のリア充と言える。
「その主催の子が友達でね? なかなか参加者が集まらなくて困ってるの。私なんかフォロワー200人くらいだし」
「私なんか80人……全然無理だね~」
女子二人は揃ってやれやれのポーズをする。
「ほら、こんなかわいい子たちが来るんだよ~?」
「どれどれ?」
トド松はスマホで前回の『インフルエンサー合コン』とやらの写真を見せてもらう。
「え、マジ……!?」
思わずごくりと唾を飲む。そこにあったのは夢のような世界だった。
写真には10人程度の女の子が写っていたが、どの子もかわいい。いかにもモデルという美人や、露出の多い服を着たノリの良さそうなギャル系、童貞にも優しくしてくれそうな清楚系の子もいた。
「かわいい子ばっかりでしょ~?」
「そ、そうだね……」
これほどレベルの高い合コンは見たことがない。しかもその中からカップルの成立する確率が80%を超えるそうだ。やはりインフルエンサーはインフルエンサー同士つながるのを望むらしく、女の子も積極的にアプローチしてくると聞いた。
こんな合コンに参加できたら……胸が高鳴る。彼女を作るとか童貞を卒業するとかそんなレベルではない。底辺ニートからいきなり上流階級へと一気にクラスチェンジできる。
「ちなみにトド松くんってフォロワー数何人?」
「えっ、ボク……?」
もう一度スマホの画像に視線を落とす。……夢のような世界。
「ちなみにその合コンっていつやるの?」
「えっと……ちょうど一週間後かな」
「ふーん……一週間後か……」
「で、トド松くんのフォロワー数は?」
再び聞かれ、トド松はやや考えて答えた。
「ボクのフォロワー数は――」
「は~……バズりてぇ~……」
トド松は怨念に近い声を漏らした。
インスタにおいて、たくさん『いいね!』がつく、いわゆるバズるものといえば、おしゃれなスイーツや料理、綺麗な風景などがあるが、そんなものはすぐには見つからない。
写真の才能もなければいいカメラを持っているわけでもないし、どこか珍しい場所へ行く金だってない。そもそも人気のお店のスイーツや料理を撮ったって誰かの何番煎じだし、そうなるとトド松は日常の中から工夫してバズる写真をひねり出すしかない。
「あぁ~なんであんな嘘言っちゃったんだろうな~……」
夢のような写真に惑わされてしまった。
フォロワー数一万人を超えているだなんて。
でも、インフルエンサーの仲間入りをして底辺をさまよう生活にさよならを告げようと思ったのだ。
トド松の現在のインスタフォロワー数は片手で数えられるくらい。どれもすでに更新が止まったゾンビアカウントだ。そういうトド松自身もしばらく放置していた口で、最後の更新は半年前。リア充仲間にあわせてアカウント登録したものの、更新が面倒臭いし、フォロワー数でマウントをとるリア充文化につきあいきれなかったというのもある。
実質、現時点ではゼロスタートと言って差し支えない状況。
フォロワー数一万人獲得までの期限は一週間。
これができなければ、ド平民のくせに見栄を張って貴族の宴に参加しようとした嘘つきの恥知らず野郎とののしられ、せっかく仲良くなれたバイト先の同僚にも愛想を尽かされるだろう。
だからなんとしてでも一週間以内にフォロワーを一万人以上集めないといけない。
©赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会